出典:『日本の色辞典』吉岡幸雄、『色の名前事典』、デジタル大辞泉、『広辞苑』第七版、『源氏物語』襲色目ほか
日本の伝統色は、わずか「赤」一文字では言い表せない繊細な階調を持っています。同じ赤でも、朱・緋・茜・紅・蘇芳と、染料・季節・身分で十段階に分かれ、それぞれが千年以上の歴史を背負っています。小説の衣装描写、ファンタジーのキャラデザイン、短歌・俳句の景物の写生――和の色名を一語入れるだけで、文章にぐっと格と陰影が宿ります。
この記事では、創作で使える日本の伝統色を、10カテゴリ100色で網羅しました。赤・桃・橙・黄・緑・青・紫・茶・白灰・黒と、色相ごとに10色ずつ。それぞれ読み方・由来・どんな場面で使えるかをセットで整理。キャラクターの装束、季節の風景、空気感の描写に、辞書代わりに参照できる保存版です。
目次
- 赤系の伝統色10色
- 桃・桜系の伝統色10色
- 橙系の伝統色10色
- 黄系の伝統色10色
- 緑系の伝統色10色
- 青系の伝統色10色
- 紫系の伝統色10色
- 茶系の伝統色10色
- 白〜灰系の伝統色10色
- 黒系の伝統色10色
- 創作で伝統色を活かす3つのコツ
- まとめ
赤系の伝統色10色
日本の赤は、染料の違いで一段一段ニュアンスが変わります。神聖・情熱・血脈・夕暮れ――場面に応じて使い分けることで、描写の温度がぐっと上がります。
- 朱(しゅ)(しゅ):硫化水銀を原料とする古代からの鮮やかな赤。鳥居・神社の柱・漆器など、神聖な場面の色。
- 緋色(ひいろ)(ひいろ):茜と紫根で染めた、燃え立つように鮮やかな赤。陣羽織・緋袴・若い武将の装束に。
- 茜色(あかねいろ)(あかねいろ):茜草の根で染めた、夕焼け空の赤。「茜さす」は万葉集以来の枕詞。
- 紅(くれない)(くれない):紅花から取った華やかで艶のある赤。平安貴族の女房装束の代表色。
- 唐紅/韓紅(からくれない)(からくれない):紅花を重ね染めにした、一段深い赤。在原業平「ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは」
- 蘇芳(すおう)(すおう):蘇芳の心材で染めた暗赤色。中世の武士の鎧の威糸に。
- 朱華色(はねずいろ)(はねずいろ):万葉集にも詠まれた、朱華(はねず)の花のような橙寄りの赤。古代の高貴な色。
- 臙脂色(えんじいろ)(えんじいろ):臙脂虫から取った深紅。西アジア由来でシルクロード経由で伝来。
- 真朱(しんしゅ)(しんしゅ):純度の高い朱。やや暗く落ち着いた赤で、伝統工芸の漆器によく使われる。
- 紅葉色(もみじいろ)(もみじいろ):秋のもみじが燃え立つように染まる赤。秋の風景描写に。
桃・桜系の伝統色10色
日本の春そのもののような淡いピンク。同じ「桃色」でも、染料・季節・場面で十段階に分かれます。少女・若さ・春・恋愛の場面描写に。
- 桜色(さくらいろ)(さくらいろ):桜の花のような淡く優しい桃色。和菓子・着物・春の装束に。
- 桃色(ももいろ)(ももいろ):桃の花のやや濃いめのピンク。健康的で可憐な印象。
- 撫子色(なでしこいろ)(なでしこいろ):撫子の花のような優しい桃色。「大和撫子」の語源にも通じる。
- 鴇色(ときいろ)(ときいろ):朱鷺(とき)の風切羽の淡桃色。儚さ・気品の象徴。
- 紅梅色(こうばいいろ)(こうばいいろ):紅梅の花のような明るい桃色。早春の装束色。
- 一斤染(いっこんぞめ)(いっこんぞめ):紅花一斤で絹一疋を染めた、もっとも淡い紅染め。控えめな美しさ。
- 退紅(たいこう)(たいこう):紅を退けた、つまり薄めた淡い紅。下級の僧衣などにも用いられた。
- 桜鼠(さくらねず)(さくらねず):桜色に灰色を含ませた、しっとりと落ち着いた桜の色。江戸の粋。
- 灰桜(はいざくら)(はいざくら):灰みを帯びた淡い桜色。大人っぽく上品な春の色。
- 珊瑚色(さんごいろ)(さんごいろ):珊瑚のような橙寄りの桃色。明るく華やかな宴の場面に。
橙系の伝統色10色
夕陽・果実・落葉・狐火――橙は和の風景に深い陰影をもたらす色。秋・温もり・実りの場面に欠かせません。
- 山吹色(やまぶきいろ)(やまぶきいろ):山吹の花のような鮮やかな橙黄色。小判や金貨の比喩にも。
- 柿色(かきいろ)(かきいろ):熟した柿の実のような明るい橙。秋の装束・暖簾・暖かな景物に。
- 樺色(かばいろ)(かばいろ):樺の樹皮のような赤みのある橙茶。素朴で温かみがある。
- 萱草色(かんぞういろ)(かんぞういろ):萱草(わすれぐさ)の花のような明るい橙。万葉集にも詠まれた古色。
- 杏色(あんずいろ)(あんずいろ):杏の実のような淡い橙色。やさしく親しみのある色。
- 黄丹(おうに)(おうに):皇太子の袍にだけ許された禁色。日輪を象徴する赤橙。
- 蜜柑色(みかんいろ)(みかんいろ):蜜柑の皮のような鮮やかな橙。冬・正月の暖かい印象。
- 鳶色(とびいろ)(とびいろ):鳶の羽のような赤みの暗橙茶。武士の羽織にも好まれた渋い色。
- 海老茶(えびちゃ)(えびちゃ):伊勢海老の殻のような赤茶。明治の女学生の袴で大流行。
- 弁柄色(べんがらいろ)(べんがらいろ):酸化鉄の顔料による赤茶。京町家・蔵の壁に塗られた色。
黄系の伝統色10色
光・実り・神聖さ・幼さを示す黄色。同じ黄でも、貴族の禁色から幼児の産着まで、社会階層を映し出すジャンルです。
- 鬱金色(うこんいろ)(うこんいろ):鬱金(ターメリック)で染めた鮮やかな黄。「鬱金の風呂敷」は宝物を包む色。
- 玉子色(たまごいろ)(たまごいろ):鶏の卵黄のような柔らかい淡黄。可憐で日常的な色。
- 菜の花色(なのはないろ)(なのはないろ):菜の花畑のような鮮明な黄。春の景色描写に。
- 苅安色(かりやすいろ)(かりやすいろ):苅安(かりやす)という草で染めた、緑みの黄。最古の植物染料のひとつ。
- 鳥の子色(とりのこいろ)(とりのこいろ):鶏卵の殻のような淡い黄。和紙の色名としても定着。
- 檸檬色(れもんいろ)(れもんいろ):レモンのような鮮やかな黄。現代に近い明るい色名。
- 黄檗色(きはだいろ)(きはだいろ):黄檗の樹皮で染めた青みの黄。経典の用紙にも使われた色。
- 黄櫨染(こうろぜん)(こうろぜん):天皇の即位礼の袍にだけ許される最高位の禁色。茶を帯びた渋い黄。
- 向日葵色(ひまわりいろ)(ひまわりいろ):向日葵の花のような鮮明な濃黄。夏の明るさ。
- 芥子色(からしいろ)(からしいろ):練り芥子のようなくすんだ黄。落ち着いた装いに合う。
緑系の伝統色10色
日本の山河、苔、若芽、深い森――緑は和の風景の基調。同じ「みどり」でも、季節と植物と濃度で十段階に分かれます。
- 萌黄色(もえぎいろ)(もえぎいろ):春に萌え出る若葉のような黄緑。源氏物語の童女の襲色目(かさねのいろめ)に。
- 若草色(わかくさいろ)(わかくさいろ):春の若草のような明るい黄緑。生命感あふれる色。
- 若葉色(わかばいろ)(わかばいろ):初夏の若葉のようなみずみずしい黄緑。爽やかさの代名詞。
- 青磁色(せいじいろ)(せいじいろ):青磁器のような淡い灰みの青緑。気品ある上質な印象。
- 苔色(こけいろ)(こけいろ):苔のような深く渋い緑。古寺の庭・山深い里の風景に。
- 常磐色(ときわいろ)(ときわいろ):常緑樹のような深く落ち着いた緑。「常磐」は永久の意。
- 鶸色(ひわいろ)(ひわいろ):鶸(ひわ)という鳥の羽のような明るい黄緑。可憐で愛らしい色。
- 千歳緑(ちとせみどり)(ちとせみどり):松の葉のような深い緑。「千歳」は千年、不変の象徴。
- 深緑(ふかみどり)(ふかみどり):夏の濃い樹葉のような黒みを帯びた緑。深山の佇まい。
- 翡翠色(ひすいいろ)(ひすいいろ):ヒスイのような透明感のある青緑。神秘的で高貴な印象。
青系の伝統色10色
空と水と藍――日本の青は染料の文化と密接です。武士の勝色から町人の浅葱、貴族の縹まで、社会階層と季節を一気に運びます。
- 縹色(はなだいろ)(はなだいろ):露草で染めた古代の青。万葉集以来の典雅な色名。
- 藍色(あいいろ)(あいいろ):蓼藍で染めた深い青。「ジャパンブルー」と海外でも称される代表色。
- 紺(こん)(こん):藍を重ね染めにした暗い青。武士の装束・暖簾・のれん。
- 露草色(つゆくさいろ)(つゆくさいろ):露草の花のような鮮やかな青。下絵を描く青花とも。
- 群青色(ぐんじょういろ)(ぐんじょういろ):ラピスラズリ系顔料の冴え冴えとした濃青。仏画や日本画に。
- 水色(みずいろ)(みずいろ):透き通った水のような淡い青。涼やかな夏の色。
- 瑠璃色(るりいろ)(るりいろ):ラピスラズリ(瑠璃石)のような深い濃青。仏教の七宝のひとつ。
- 浅葱色(あさぎいろ)(あさぎいろ):葱の葉先のような薄青緑。新撰組の隊服色としても有名。
- 勝色(かちいろ)(かちいろ):藍を極限まで重ねた紺。「勝つ」に通じる縁起色で武家の必需品。
- 空色(そらいろ)(そらいろ):澄んだ空のような明るい水色。希望・解放感の象徴。
紫系の伝統色10色
紫は古代より高貴の色。冠位十二階で最上位に置かれ、現代でも気品と神秘の象徴です。創作のキーキャラクター描写に。
- 紫(むらさき)(むらさき):紫草の根で染めた高貴な色。冠位十二階の最上位、平安宮中の禁色。
- 江戸紫(えどむらさき)(えどむらさき):青みを帯びた濃い紫。江戸時代の歌舞伎・粋の象徴。
- 京紫(きょうむらさき)(きょうむらさき):赤みを帯びた落ち着いた紫。京都の伝統色。
- 古代紫(こだいむらさき)(こだいむらさき):灰みを帯びた渋い紫。沈んだ気品が漂う。
- 藤色(ふじいろ)(ふじいろ):藤の花のような淡く優美な薄紫。春の装束・名物切に。
- 菖蒲色(しょうぶいろ)(しょうぶいろ):菖蒲の花のような赤みの紫。端午の節句の色。
- 菫色(すみれいろ)(すみれいろ):菫の花のような青みの紫。清楚で慎ましやかな印象。
- 葡萄色(えびいろ)(えびいろ):山葡萄の実のような暗い赤紫。古来「えび」と読む高貴な色。
- 桔梗色(ききょういろ)(ききょういろ):桔梗の花のような青紫。秋の七草の一つ。
- 紫紺(しこん)(しこん):紫と紺の中間、深く沈んだ暗紫。優勝旗や格式高い装束に。
茶系の伝統色10色
江戸時代の「四十八茶百鼠」――幕府の奢侈禁止令が、茶系のニュアンスを百段階に発達させました。地味で渋く、しかし飽きのこない色です。
- 焦茶(こげちゃ)(こげちゃ):焦げたように暗い茶。古道具・古材の落ち着いた色。
- 黄土色(おうどいろ)(おうどいろ):黄色みの土のような色。日本画の岩絵具の代表色。
- 利休茶(りきゅうちゃ)(りきゅうちゃ):茶人千利休が好んだとされる、緑みを帯びた渋い茶。
- 路考茶(ろこうちゃ)(ろこうちゃ):歌舞伎役者・瀬川菊之丞(俳名・路考)が好んだ茶。江戸の役者色。
- 鶯茶(うぐいすちゃ)(うぐいすちゃ):鶯の羽のような緑がかった茶。地味だが粋な色。
- 媚茶(こびちゃ)(こびちゃ):昆布の色に由来する暗い茶。質素な町人の装い。
- 朽葉色(くちばいろ)(くちばいろ):朽ちて落ちた葉のような赤みの茶。秋の終わりの情景に。
- 栗色(くりいろ)(くりいろ):栗の実の皮のような赤褐色。馬や髪の毛の比喩にも。
- 煤竹色(すすたけいろ)(すすたけいろ):囲炉裏の煙で燻された竹のような暗茶。古民家の色。
- 丁子色(ちょうじいろ)(ちょうじいろ):丁子(クローブ)の蕾で染めた淡い黄褐色。香りも添えて。
白〜灰系の伝統色10色
何もない色ではなく、しっとりと地に潜む静謐な色たち。「四十八茶百鼠」と呼ばれるほど、灰色だけで百種類が江戸時代に発達しました。
- 白(しろ)(しろ):神道で清浄を表す色。死装束、婚礼、神饌に。
- 生成色(きなりいろ)(きなりいろ):漂白前の絹や麻の自然な色。素朴で温かみがある。
- 卯の花色(うのはないろ)(うのはないろ):卯の花のような純白に近い色。「ほととぎす啼くや卯の花月夜」
- 絹鼠(きぬねず)(きぬねず):絹のような艶のある淡い鼠色。粋な装いに。
- 銀鼠(ぎんねず)(ぎんねず):銀色に近い明るい鼠色。江戸の人気色。
- 利休鼠(りきゅうねずみ)(りきゅうねずみ):緑みを帯びた渋い鼠色。「城ヶ島の雨」で「利休鼠の雨が降る」と詠まれた色。
- 鳩羽鼠(はとばねずみ)(はとばねずみ):鳩の羽のような紫みの鼠色。落ち着いた上品な雰囲気。
- 鈍色(にびいろ)(にびいろ):濃い灰色。源氏物語では喪服の色として描かれる。
- 雪色(ゆきいろ)(ゆきいろ):雪が積もったような清廉な白。冬景色の描写に。
- 白磁色(はくじいろ)(はくじいろ):白磁の器のような、青みを帯びた清涼な白。
黒系の伝統色10色
日本の黒は、ただの「無」ではありません。墨・漆・烏羽・夜空――素材と現象から生まれた、深く豊かな黒の階調です。
- 墨色(すみいろ)(すみいろ):墨で書いたような黒。書道・水墨画・喪服に。「濃淡」の墨で陰影が無限に変わる。
- 漆黒(しっこく)(しっこく):漆を塗ったような艶のある最深の黒。神聖さ・夜の闇の象徴。
- 烏羽色(からすばいろ)(からすばいろ):烏の羽のような青みの黒。女性の艶やかな黒髪の比喩。
- 檳榔子染(びんろうじぞめ)(びんろうじぞめ):檳榔子の実で染めた暗褐色の黒。武士の正装の色。
- 消炭色(けしずみいろ)(けしずみいろ):消し炭のような薄い黒。マットで落ち着いた印象。
- 黒橡(くろつるばみ)(くろつるばみ):橡(つるばみ)の実で染めた赤みの黒。古代から喪服に用いられた。
- 濡羽色(ぬればいろ)(ぬればいろ):濡れた羽のような濃く艶のある黒。和歌で美しい黒髪を称える定型。
- 紫黒(しこく)(しこく):紫を帯びた黒。重厚で神秘的。
- 玄(くろ)(くろ):天の色を意味する古代の黒。「玄武」「玄関」の玄。
- 涅色(くりいろ)(くりいろ):川底の黒い泥で染めた暗黒色。「涅而不緇」(黒くしても汚れず)の故事。
創作で伝統色を活かす3つのコツ
創作で伝統色を活かす一つ目のコツは、「漢字一字の色名」と「複数文字の色名」を使い分けること。「紅」「縹」「玄」のような一字の色は古代的・神話的な格調を、「紅梅色」「鳩羽鼠」のような複合語は江戸的な細やかさをまといます。世界観の年代に合わせて選ぶと、時代感がぶれません。
二つ目のコツは、「禁色」と「許し色」の階層を意識すること。黄櫨染・黄丹・紫・緋などは、平安〜江戸期には身分により着用が許されない禁色でした。創作の中でも、貴族・武家・町人・庶民で色を厳密に分けて描くと、社会階層の描写に深みが出ます。
三つ目のコツは、「襲色目(かさねのいろめ)」を試してみること。平安貴族は単一の色ではなく、表と裏の絹を重ねて季節を表現しました。たとえば「桜襲(さくらがさね)」は表が白、裏が紅。本記事の100色から2色を選んで重ねるだけで、平安王朝の美意識を再現できます。
まとめ
本記事の100色は、いずれも『日本の色辞典』(吉岡幸雄)、『広辞苑』、デジタル大辞泉に収録される、伝統的かつ現代でも通用する色名です。色を表す日本語は、視覚情報だけでなく、季節感・時代感・身分・気品まで一語で運んでくれる、世界に類を見ない言語資産。物語を書くときの色見本としてブックマークしてお使いください。
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